介護において、ポータブルトイレの問題は、本当に工夫が必要な問題だと考えています。
トイレは、移動が難しくなったからといって近くに置いておけば良いというものではありません。
介護の専門にする者として、自らの経験などを踏まえたうえで考察していきます。
目次
ポータブルトイレの是非
一般的な感覚として、私たちが自分の部屋にトイレが置いてあることに対して、何とも思わないということはありえないはずです。
臭いへの抵抗だけでなく、部屋にトイレが置かれているという心理的な抵抗は介護を受ける側にとっても精神衛生上良くないものです。
ですので、できる限り普通のトイレを使用することが最善の策となります。
そして、それができるように最善のサポートをするのが介護の本質ではないでしょうか。
介護におけるポータブルトイレの功罪
あなたが介護に携わった時、自力でトイレにいくことが難しい人が居たらポータブルトイレを勧めますか?
人間の心理面において、トイレを自力でできるかどうかは、自立の最終ラインとも言えます。
考え方に個人差があるとはいえ、多くの高齢者が自分でトイレに行けなくなったら状態が悪化するスピードが早まります。
これは、人としての尊厳がそこにあり、自力での排泄は、最低限保っておきたいものと誰しもが考えているからです。
それができなくなると、やはり諦めの部分が出てきてしまいます。
そうすると、急速に心身ともに状態が悪化するといった結果を招くことがあるのです。
在宅介護でのポータブルトイレについて
在宅介護において、自力でトイレに行くことが難しいと判断される時、部屋の動線に問題があることが要因としてあげられます。
しかし、そこですぐにポータブルトイレを設置してしまっては、根本的な解決にはなりません。
例えば、部屋の中が散らかっていたりして、まともに移動できない状態の部屋では本人がいくら歩けても躊躇します。
このことが原因で、トイレにいくことが難しいと判断され、ポータブルトイレを部屋に置かれてはたまったものではありません。
できる限り、自分でトイレにいくことができるように手配するべきではないでしょうか。
もちろん、どうしても、困難なケースも考えられます。
ですが、そんな場合でも一部介助をすることによって実現できるようにサポートすべきです。
選択肢としては、車椅子で動けるような部屋づくりをするということも1つです。
これをすっ飛ばして、ベッドの隣にポータブルトイレを置くことを選択するのは、介護を受ける人の為とは言えません。
また、安易にその選択を勧める人が介護の専門家と言われる人であれば、「どうなの?」と思ってしまいます。
衰える自分の体に対して、最後の抵抗を続けられる。誰もがそういった気持ちを最後まで持っているはずです。
可能な限り、自力でできる環境を作り上げていくことこそが周りで支える人の役割ではないでしょうか。
介護施設でポータブルトイレが使われる理由
在宅において、ポータブルトイレが使用されるケースでは、動線の確保ができず、そこに設置せざるを得なかったということがあります。
では、介護施設の部屋にポータブルトイレがあるケースはどのように考えられますか?
もちろん、その場所に必要となるケースはあります。
ですが、ほとんどの場合、施設の業務効率化によるものでしょう。
介護施設で勤務している介護士の一般的なスキルがあれば、高齢者をトイレに連れて行き、介助することはできます。
(介助リスクを考慮するのは当然のことです)
しかし、それをせずに、その場で排泄を促すということは、この移動にかかる介助の労力や時間を短くするといった目的であることも考えられます。
特に、認知症の高齢者の入居施設などで見かけられますが、トイレはちゃんとあるのに、オムツかポータブルトイレで済ませているケースがあります。
これらは、認知症だから、わからないからなどという理由で行われる施設都合の介助と言われても仕方ありません。
最近では、介護業界においても、オムツゼロ運動やどんな状態でも、しっかりとトイレで排泄する取り組みが出てきました。
こうした小さな取り組みでも、人間の本質的な心理を考えて介助することで、思わぬ状態の改善につながるケースが出てきています。
やろうとすれば、できるんです。
取り組みを変えると、介助を受ける人も、明らかに良い変化が見えてきます。
限られた人数で運営している施設の職員が、そこに時間と労力をかけることができるかどうかの問題なのです。
言ってることと逆行することはよくある
介護の仕事をしていると、尊厳という言葉をよく聞きます。
人がどういう状態になっていても、かならず尊厳はある。
そう常々言ってる介護施設で、それと逆行する行為は多々あるんです。
できなくなったからすぐに全介助というような安易な選択が、時には状態を悪化させてるということも考える必要があります。
無気力への介護
介護をするにあたり、介助を受ける人の心が最も大切です。
では、何もしたくないという方に対してはどうすればよいのでしょうか。
例えば、トイレ。
できるのに、トイレに行かずその場ですることを選択する人。
動くのが面倒だからポータブルトイレを選択する人は時々います。
明らかに、ネガティブになっています。
考えられる原因の1つに、『介護を受けることになった自分に対する情けなさや無力さ』が、そのような気持ちを引き起こしていると考えられます。
当然ながら、その場合は、本人の意思を尊重することが優先となるでしょう。
ただ、介護士目線でいうと、その状態の人をうまく誘導してトイレに連れて行くことができると達成感を感じることがあります。
それは、介護士などは無気力な状態が引き起こす今後のリスクや、将来像がなんとなく見えてしまうからです。
なので、それを防ぐ可能性が見えたことに対する喜びでもあります。
形は違っても、相手の感情を探りながら、結果的に相手にとって良いことを選択していくことが大切なのではないでしょうか。
介護におけるポータブルトイレ問題のまとめ
介護におけるポータブルトイレ問題について最後にまとめておきます。
ポータブルトイレについての要点
- トイレは部屋に置くものではない
- 在宅では、設置を検討する前に他の手段がないかを考える
- 介護施設の部屋にポータブルトイレがあれば、理由を推測してみよう
- 介護の世界では、言っている理想と、やっている現実が真逆のことも多々ある
- 無気力は最大のリスクだが、介護士としては腕の見せどころでもある
以上のような内容でした。
余裕が無い職場で気持ちが萎えてしまっている方はコチラの記事も参考にしてほしいです。
大切なのは、『できることをできないと決めつけて奪ってしまわないようにする』ということです。
それが介護施設で、職員都合であれば尚更です。
よい介護には、介護をする側の心の余裕と時間の余裕があることが理想ですね。